パーキンソン病の当事者の皆さんにとって、ご自身の体が動きにくい状況や、薬の効果が弱くなって症状が出現した状態(オフ)を周囲の人に理解してもらうのは難しくもどかしいと思います。
また日常生活で困ったときに助けを求めることも難しく、ご自身で解決しなければならないことも多くあると思います。そこで、今回は日常生活を送る上で役にたつヒントをご紹介いたします。
まず、ご自身の体調の悪い時にも安全、かつ快適に日常生活を送ることを考えると、優先的にご自宅内を動きやすい環境に調整することをおすすめします。それには、介護保険を有効的に活用すると良いでしょう。
パーキンソン病は介護保険で指定されている16の特定疾病であり、40歳から申請が可能です(第2号被保険者)。
申請して認定されれば、住宅改修(改修の対象となる項目は決まっています 例:手すりの設置、床材の張替え、開き戸から引き戸への改修等)や、特定福祉用具の購入(入浴や排泄に関わるレンタルが難しいもの)の補助があります。その他、介護度によってベッドや歩行器などレンタルが可能な物があります。
サービスを利用する際は、居宅介護支援事業者と契約し、その事業者のケアマネージャーに依頼して、利用するサービスを決め、介護サービス計画 ( ケアプラン ) を作成してもらいます。また、介護度に応じて利用限度額が設けられており、利用者負担は1割~3割です。
厚生労働省「介護保険制度について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001238058.pdf
介護保険では、担当のケアマネージャーがいろいろとサービスの手配をしてくれますが、パーキンソン病という病名だけではなく、「ご自身の症状や困りごとを伝えて、一緒に考えてもらう」ようにしましょう。そうすることで個人の生活に合った具体的なサービスの提案が受けやすくなります。
自宅内の手すり設置:
介護保険を利用することにより手すり設置工事を行うことができます。しかし、賃貸物件など手すりの工事が難しい場合は、突っ張り式や据え置き型の工事が不要な手すりをレンタルすることもできますので、住環境によって使い分けることができます。
また、足がすくんだ時に目印になるところに手すりがあると移動しやすいので、可能であれば突っ張り式の手すりを要所要所に用意するのも一案です。
足が出やすくなるための工夫:
床に印をつける:床にテープやシールで足が出やすいように印をつけます。しかしいつも同じ場所に貼ってあると効果が薄れる場合があります。そのようなときには、壁に付箋を貼って手に意識を向け付箋を触りながら歩くというのも一案です。
椅子の選び方:
長時間椅子に座って過ごされる方も多くいますが、更に両腕が常に体の前側にあると、これも前傾姿勢を助長しますので、肘掛けのあるタイプの椅子がおすすめです。
座面の高さについては、膝が90度で足裏がしっかり床に着くことが目安になります。
車椅子でも考え方は同じです。車椅子の場合には、福祉用具の専門家にしっかり調節してもらいましょう。
入浴:
薬の効き目の弱い時間がある人は、その時間、あるいはそうなりそうだと感じる時には、入浴しないこと。入浴中に薬の効き目が弱くなって体が動かしにくくなると、時に生命に関わります。
浴室の環境整備には、介護保険の特定福祉用具の購入補助を利用することができます。
食事:
食事の場面では、手に力が入り難くなることで、箸が使いにくいと訴える方が多くいます。だからといって直ぐに箸の代わりとなる福祉用具(自助具)を利用するのではなく、少ない力でつかみやすい箸に変更してみたり、補食を小さなおにぎりなどにして食べやすくするなど、心理的抵抗の少ない方法を工夫する事も大切です。
着替え:
袖を通した瞬間に腕の位置が分かりにくくなると訴える人もいます。着替えをする前には、体を摩って感覚を刺激してから腕や足を通したり、袖を通す時には勢いをつけて着る等の工夫が有効です。
就寝時とベッド周囲の工夫:
睡眠障害や夜間頻尿で苦しんでいる方は多くいます。
とくに寝返りが打ちにくく、布団が重いと感じる方も多いようです。基本的な対策として、寝返りに必要な筋力を維持することが必要です。そのために継続的なリバビリをおすすめします。また寝返りをしやすくするために寝具やパジャマを滑りのよい素材(シルクやサテン)に替えることも有効です。
また、一旦覚醒してしまうとその後寝付けなくなってしまうことがあるので、トイレなどで目が覚めた時も必要以上に強い光を浴びないようにする工夫もおすすめします。ただし、転ばない程度の弱い光、例えば、足元のライトを利用する工夫も大切です。
自力での起き上がりが困難になってきた方は、ベッドサイドに手すりを設置したり、電動ベッドを利用するなどの工夫もできます。
最後に、良質な睡眠のためには、入眠時に体温を下げやすくする工夫も必要で、電気敷き毛布やエアコンの温度は、上げすぎないようにすることもポイントです。
現在のパーキンソン病のガイドラインでは、診断後から運動と薬の両輪が大切とされています。リハビリは医療保険や介護保険を利用し受けることができます。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がご自宅まで訪問しリハビリを行う訪問リハビリでは、日常生活の困りごとの相談や対処法を一緒に考えてもらえる点が良いと思います。
そのほか、定期的に運動する場所に通う(公共の介護予防教室などでも、苦手な動きだけを伝えて参加する)事も非常に大切です。
「〜をしてもらう」という受け身ばかりでは、体の動きの改善には繋がつながりにくいということです。
患者会などに参加して、同じ病気の方やそのご家族との対話などから心の負担を軽減したり、卓球などの運動をすることで気分転換したり、運動機能面や非運動機能面に対しても良い効果を得られる可能性があります。
患者会に限らずご自宅を離れるきっかけがあると、活動量が増えるので、心身の良いリハビリになります。
アメリカのパーキンソン病の方々を対象にしたデータ*では、病気の進行に最も深く影響するのが「孤独」だと結果が出ています。
*Indu Subramanian, Joshua Farahnik and Laurie K. Mischley, Synergy of pandemics-social isolation is associated with worsened Parkinson severity and quality of life. npj Parkinson’s Disease.28,1-8(2020).
「一人ではない」と感じることは、心身の安定につながります。また、当事者同士、家族同士の交流では、話さなくても分かり合える場面があり、非常に大切な機会でもあります。
中には、患者会には行きたくないと思う方もいるかもしれません。そのようなときには、行ってみようかなと思うまで待つのも大切です。
パーキンソン病の当事者の皆さんは、メンタルの状態が運動症状に大きく影響する方が多いので、なるべくご自身の負担になるようなことは避けましょう。