すくみ足の問題には、リズム運動が鍵を握る理由

はじめに

「一歩が出ない」 「足がすくむ」


 パーキンソン病患者が日常生活で最も悩む症状の一つが、すくみ足(Freezing of Gait, FOG) です。足が床に張り付いたように動かない、曲がり角で急に足が止まる、 人混みや狭い場所で進めなくなる といった現象が頻繁に起こります。

 すくみ足は、単なる筋力の低下やバランスの問題だけではなく、脳内の「内的リズム障害」 にも起因していることがわかっています。パーキンソン病では、脳内のリズム生成がうまく機能せず 、動作の開始や切り替えがスムーズに行えない 状態に陥ります方も多くいらっしゃいます。

 そこで今回は「内的リズム障害」と「リズム運動」に焦点をあてたお話をします。


 

「どうして足が動かないのか?」

 この疑問に対する答えが、内的なリズム障害 にもあるのです。そして、このリズム障害を克服するための鍵となるのが、リズム運動 です。


内的リズム障害とは?

1. 脳内のタイミング調整の乱れ
パーキンソン病では、脳内の基底核 と呼ばれる部分の機能が低下します。基底核は、動作のタイミングリズムの調整 を司る重要な役割を担っています。 しかし、ドーパミンが不足すると、この 「内的なメトロノーム」 が狂い、動作のリズムが不規則になりがちです。



2. すくみ足(FOG)の原因
• 動作の開始ができない:脳が「歩き出せ」という指令を出しているのに、筋肉が反応しにくくなります。


• 動作の切り替えが困難:方向転換や歩幅の調整が難しくなり、狭い場所や障害物を避けるときに足が止まってしまいます。



3. リズム障害が招く悪循環
内的なリズム障害によって、一歩が出ない不安感転倒の恐怖 が強まり、さらに動作がぎこちなくなるという 悪循環 に陥ることがあります。 この負のスパイラルを断ち切るためには、外部からリズムを補助する 必要があります。



リズム運動が有効な理由

1. 外部のリズムで脳内リズムを補完する
内的なリズムが乱れている場合、外部のリズム を利用することで、脳内のタイミング調整を補完できます。 例えば、メトロノームの一定のビート音楽のリズム が、脳内の基底核を刺激し、動作のリズムを整える役割を果たします。


2. 動作の開始と切り替えをスムーズにする
音の合図 により、動作の開始がスムーズになります。
例:メトロノームの「カチッ」という音で一歩を踏み出す。
• リズムに乗せて動くことで、動作の切り替え(方向転換や速度調整)が容易 になります。

3. 脳と筋肉の連携を改善する
リズム運動は、脳と筋肉の連携を強化 し、動作が滑らかになる効果があります。特に、歩幅が広がり、 歩行速度が安定 するため、転倒のリスクを減らせます。


リズム運動の具体的な実践方法

1. 音楽に合わせたウォーキング
テンポのよい音楽、毎分90〜120ビート を使用します。
音のビートに合わせて一歩ずつ踏み出す ように意識します。
• 好きな音楽を選ぶことで、楽しく継続しやすい メリットがあります。


2. リズム体操とストレッチ
「1、2、3、4」のカウントに合わせた体操 を行います。例えば、腕を上げ下げする動作をリズムに合わせて行うことで、 全身の協調性が高まります。
ストレッチもリズムに合わせて行う と、筋肉の緊張が緩和され、動きがスムーズになります。

3. ダンスによるリズム運動

• ダンスは、楽しく行えるため、モチベーション維持 にも繋がります。


科学的根拠:リズム運動の効果を裏付ける研究

>メトロノーム歩行訓練 によって、歩幅が広がり、歩行速度が安定する ことが確認されています。 また、すくみ足の頻度が減少することも報告されています。
音楽に合わせた運動 は、脳内の報酬系を刺激し、ドーパミンの分泌を促進 するため、気分が高まり、運動意欲が向上します。

リズム運動を取り入れる際のポイント

1. 無理のないペースで行う:最初はゆっくりとしたテンポから始め、徐々にリズムを速めていきましょう。
2. 転倒防止の配慮:安全な場所で行い、必要に応じて手すりを使用しましょう。
3. 継続が鍵:リズム運動は 継続することで効果が現れやすく なります。楽しみながら続けられる方法を見つけましょう。

まとめ

パーキンソン病における 「すくみ足」「一歩が出ない」 といった症状は、内的なリズム障害 によって引き起こされます。 しかし、外部のリズムを利用することで、脳内リズムを整え、動作がスムーズになる ことが科学的に証明されています。
リズム運動 を生活に取り入れることで、動作の不安感を軽減し、生活の質を向上 させることができます。 ぜひ、日常生活にリズムを取り入れて、前向きな一歩を踏み出してみてください。

参考文献:

• Nombela, C., Hughes, L. E., Owen, A. M., & Grahn, J. A. (2013). Into the groove: Can rhythm influence Parkinson’s disease? Neuroscience and Biobehavioral Reviews, 37(2013), 2564–2570.
• Emiri Gondo ,Saiko Mikawa and Akito Hayashi,Using a Portable Gait Rhythmogram to Examine the Effect of Music Therapy on Parkinson’s Disease-Related Gait Disturbance Sensors 2021, 21(24), 8321
• Kun-Peng Li , Zeng-Qiao Zhang , Zong-Lei Zhou , Jian-Qing Su , Xian-Hua Wu , Bo-Han Shi , Jian-Guang Xu , Effect of music-based movement therapy on the freezing of gait in patients with Parkinson's disease: A randomized controlled trial Front Aging Neurosci. 2022 Oct 19:14
• 木村大輔,パーキンソン病患者のすくみ足における内的リズム形成障害と遂行機能の関連 高次脳機能研究 第 40 巻第 3 号110(348)

参考 : コントロールPD動画

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